——ちなみに、(2017年に次いで)2019年1月、舞台「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」で主役級のキャストであるマシュ・キリエライト役をやったことも影響はありますか?
ナナヲ すごく関係あると思います。舞台ってものすごい数の人が関わっていて、言ったら、みんながみんなセンターじゃないですか。ナナヲアカリはナナヲアカリっていう作品なんですけど、舞台は「Fate/Grand Order THE STAGE -絶対魔獣戦線バビロニア-」というタイトルがあって、そこに出てくる人たちのいろんな魂があった上で成立していて。でも、考え方はみんな違っていて、お芝居のやり方も全然違うのに、目指しているところは一緒で、ステージが作られていく。そこに向かって、毎日毎日稽古場に行って、朝から晩まで重い楯をふってて、自分じゃないみたいな感じでした。ひとつのものを作るエネルギーというのは、ナナヲアカリのライブひとつをとっても、もちろん自分だけじゃなくてバンドもいるし、スタッフもいるし、お客さんもいるから、音楽に対しても、このくらいのエネルギーをもって作りたいなって思いました。音楽って、先に音源が出て、みんな聴いてきてライブを観にきてくれるから。やっぱりワンマンライブって、みんな知ってくれている前提で、よくいえば安心感、悪くいうと自分の中で甘えのようなものがあって。舞台にはそれがないから、評価はその瞬間いいか悪いか。毎日同じことをやるのに、全然違うものになるというのを痛感したし、それを自分の音楽に反映させることができたら、めちゃくちゃいいものになるなって。今も試行錯誤中ですけど意識は変わった。同じことをやっても絶対同じ風にはならないから、自分の気持ちが変われば、受け手も変わるっていうのはすごく気づけたかな。
——舞台の稽古って、すごく大変だったんでしょう?
ナナヲ すっごい大変でした。稽古してた時に、ナナヲアカリの打ち合わせとかいくと、両腕テーピングとかしてたから「どうした!?」って心配されて。「私もわからない!」ってなってた。「何が起きたんだ!?」って。ボクサーでもそんなになってないよって。
——ボロボロ(笑)。
ナナヲ ボロボロになりますね。でも得るものも多かった。
——そういう経験を音楽にフィードバックしているんですもんね。
ナナヲ いろいろやってみて、いろいろ考える。ものごとを考えるのは好きだから、そうやって自分が得たものをナナヲアカリに置き換えたらどういうことなんだろうって、いろんなことに挑戦するのは、ためになっています。
——では、舞台やツアーを経て、音楽制作において、よりチーム感がでてきた中で、大きく変わったところってありますか。
ナナヲ 『しあわせシンドローム』を作り始めてからかな。それまでもシングルやベストアルバムとか、コンセプトを立てて作っていたんですけど、『しあわせシンドローム』『DAMELEON』の2作は舞台を経たこともあって、コンセプトとキャッチコピーとで100案くらいチームで出して。「ああでもない、こうでもない」「もうちょっとよくなりそう」とか「来週に持ち越しかな」とかって追い込んでやっていました。これまでも自分の考えで直感的に生きてきて、もちろん考えてはいるんですけど、考えを表に出すことをあまりしてこなかったんですね。でも、そこからちゃんと言語化をして、考えていることを言葉にして、どういう気持ちなのかというのを意識的に発信するようになった。それから、ちょっとずつ変わってきたかな。
——何かを作りあげるために、いろんな人を動かすためにも、ちゃんと言わないと伝わらないから。
ナナヲ やっぱり、言葉にするのは本当に大切なんだなと思って。
——そういうのは作家陣に対してもスタッフに対しても同じですよね。
ナナヲ 深いところまで話せば話すほど、もっともっといいものができる。
——では、具体的に手応えがあった曲は?
ナナヲ 『しあわせシンドローム』だと「Youth」かな。
——なるほど。自分で詞も書いていますもんね。
ナナヲ この曲は、作曲・編曲のキタニ(キタニタツヤ)とふたりで打ち合わせをして、<しあわせ>について考えて、「こういうミニアルバムにしようと思っているんだよね」という話をしていたときに、キタニから提案があって。人付き合い狭すぎるなかでも、親友がいて。桜(中山桜 / フォトグラファー)とは本当にしょっちゅう遊んでいて。「あんなに仲いいのに、あかりんって桜の曲ないよね」って言われて。幸福度って、友情って密接に関係しているなっとも思ったし。これを歌にしようって。キタニとも遊んでて、楽曲先行で仲よくなったんですけど、プライベートで話すこともあって、すごくディスカッションしやすかった。『しあわせシンドローム』は全部そうやって熱を持ってできて、自分の中で手応えのある作品になったので、すごく意味のあるミニアルバムになったかな。『しあわせシンドローム』から『DAMELEON』へのジャンプもすごくあってよかったな。
——今回のミニアルバム『マンガみたいな恋人がほしい』で、それがさらにスパークしているような。
ナナヲ 確かに、むちゃくちゃしてる。一概にラブソングを集めましたみたいな作品にもならなかったし。
——最初、資料のキャッチコピーを見て、「ラブソングやるんだなー」って聴き始めたんですが、まさかこんなアルバムになっているとは。
ナナヲ ラブソング歌い始めたんだって思って聴いたら裏切られますよね(笑)。
——ナナヲアカリでしかなかったみたいな。
ナナヲ そうですね。なんか、ラブソングなんだろうけど、ナナヲアカリだなっていうものになったなって。
——最初から恋愛をテーマで作ろうと思っていたんですか?
ナナヲ 漠然と愛について歌いたいなというのは思っていて。春だし、そういう気持ちが届くのかなとも思ったんですけど、どういったラブソングにしようかなとは考えていなくて。作っているうちにナナヲアカリらしい愛って、恋だけじゃないとすごく思って。ラブソングって恋愛を歌うものが多いじゃないですか。恋とか恋愛とかって定義づけられると思うんですけど、ナナヲは恋だけを歌っていても違うなっていうのが自分の中ですごくあったし、「キラキラ」とか「あなたのことが好きなの」とか、そういうことではないですと。そういうものが打ち出せたミニアルバムになったんじゃないかなって。哲学の中でも愛にフォーカスしているような曲が収録されているなって思います。
——1曲目「チューリングラブ feat.Sou」が今話題じゃないですか。この曲に引っ張られたとかもある?
ナナヲ いや。恋愛というテーマはそこよりも先にあって。でも「チューリングラブ feat.Sou」を収録するんだったら、より愛をテーマにしていいんじゃないかなというところはありました。
——TVアニメ「理系が恋に落ちたので証明してみた。」のエンディングテーマということで、アニメも観ましたけど、簡単に割り切れない恋愛の心を理系的に分析しようとするとって……一風変わってるけど、おもしろい恋愛ですよね。
ナナヲ シュールですよね。バカじゃないの!? っていうことを本気でやると本当におもしろくなるんだなって。こんなにハマるアニメがあるのかっていう。残念感がすごいマッチしてて。すごいなって思いました。
——主人公のふたりも、イケメンと美女なのにね(笑)。曲はどのようにできたのですか。
ナナヲ ナユタンさんと話をして、理系×恋のタイアップという話だけど、どういうことだろうと。真面目なシリアスな感じではなくラブコメだから、そのイメージで。やっぱり誰かと男女で歌ったほうがよりコミットできるのかなという話になったときに、以前、Souくんがナナヲの「ディスコミュ星人」をカバーしてくれた時にすごくハマってて、ナユタン×ナナヲ楽曲との親和性もすごくあるなと思ったので、お声がけさせてもらって、「ぜひ、やりたいです」って言ってもらって作り始めたんです。これまでも「インスタントヘヴン feat.Eve」でもデュエットソングはあったんですけど、今回ほど目まぐるしくなくて。それは、主人公の氷室菖蒲と雪村心夜のめまぐるしいやりとり、そのテンポ感でスイッチしていったら、高速デュエットのイメージがぴったり合うんじゃないかなって。ナユタンさんがかなり理系に寄せて歌詞を書いてきてくれて、ナナヲが書いたポエトリー部分も理系要素を入れて、理系モードを崩さないようにしました。それこそお兄ちゃんが理系だったから、お兄ちゃんに理系の言葉を知ってるだけ教えてって。「それっぽい、カタカナがいい!」とかって。<アノマリー>という言葉はお兄ちゃんから教えてもらいました。
——どういう意味なんですか?
ナナヲ 「科学的には証明できないもの」とか、そういうことらしくて、ぴったりじゃんと思って使いました。
——しかし、証明できない、悩まなくていいところでぐるぐるやってる感じっていいなあ。
ナナヲ 本人たちはいたって真面目ですからね。
——ナナヲさんもそういうところありますよ。
ナナヲ うそー。そういう残念な愛しみがありますか。うれしいな。氷室と雪村みたいだったらいいな。この、デュエットソング、実際にキャストの方も歌ってくれてて。レコーディングにも立ち会ったんですけど、すごかったです。雪村役の声優・内田雄馬さんがレコーディングする時に、雪村と氷室がカラオケで歌ってる体っていう感じで歌い始めて。できあがったものを初めて聴いたプロデューサーが「カラオケ感ある」って言ってて(笑)。本当にそれで録ってたのでって。今時っぽい、高速のいいデュエットソングになりました。
——実際、盛り上がっていますよね。
ナナヲ そうですね。3日で100万回再生いったのってダントツで。最初バグかなと思って。
——1300万以上の再生回数(3/27現在)ってすごいことですね。
ナナヲ すごいスピードで。2020年に入って邦楽で1000万回突破した曲ってEveくんももう多分入ったんですけど。当初、Official髭男dism、King Gnu、ナナヲアカリっていう。「ナナヲアカリ入ってる草」って誰かが言ってて(笑)。「その並び、不自然じゃない?」っていう。
——(笑)。今までも再生回数の多い「ダダダダ天使」とか「インスタントヘヴン feat.Eve」とかありましたけど。余裕で抜く勢いですよね。
ナナヲ 抜きそうですね。今まで、あまりナナヲを聴いてなかった人たちが、「チューリングラブ feat.Sou」で知ってくれたという話は聞くんですけど、まだ、自分ではあまりわかっていないです。すっごく早く1000万再生回数いったっていうところまでしかわかってない!
——いい感じで、この曲で、ミニアルバム『マンガみたいな恋人がほしい』にドライブがかかったのではないかと。この制作はどのように進んだのですか。
ナナヲ デモの段階でナナヲの曲では「MISFIT」と「note:」はあって。1番最初にできた曲は「逆走少女」ですね。曲はみきとPさんってナナヲが聴いてた時代の神のボカロPなんですが、すごく話しやすい方で、やわらかでマイペースな方だったんですけど、最初はチャキチャキってギターを刻む感じの高速ギターロックという感じでお願いしようと思っていたんですが、話しているうちに、みきとさんから「ナナヲさんの新しい感じっていうか、みきとPとしても新しい感じをやってみたい」と提案してくれて。作詞をてにをはさんという「逆走少女」で見てとれるように、いろんな言葉使いが上手な方を作詞で入れたらおもしろいと思うんだけどっていうことで。みきとP完全プロデュースの楽曲で、レコーディングもすごく楽しかった。その場、その場で、「これ、後ろ向いて<ぎゃくそー>って録ったらそれっぽくなるんじゃない?」とかって。
——マイクに背を向けて歌ったってこと?(笑)。
ナナヲ そうです。それで、実際、そのテイクが使われているんですけど(笑)。ガヤが全部みきとPとてにをはさんっていう、すごく豪華なことになっています。全部逆張りしてしまう感じとか、本当は違うんだけどねっていうところとか、まっすぐにナナヲアカリしてるなって思います。
——イコール、逆走っていう。
ナナヲ どんなやねんって(笑)。
——ただ、今回ご自身で作詞・作曲を手掛けた2曲は素直ないい曲になっていて。
ナナヲ ありがとうございます。これはお気に入りですね。今回「MISFIT」も「note:」もすごく素直にかけた曲で。全然内容は違うんですけど、両方ともすごく素直な気持ちで書けた曲だから。「note:」は愛について書くかって思った時に何曲か書いたうちの1曲ですが、まっすぐなバラードでいいんじゃないってことで収録することになって、ナナヲの中では過去の恋愛供養というような曲になりました。それこそ2017〜2018年の自分の精神が不安定なころ、不安定な恋愛をしているみたいな。自ら不安定に向かっていってる時に書いた曲なんですけど。今となってはすごくスッキリした気持ちでこれを歌えるし、だからこそ書けたんだと思うし。